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教育カテゴリNo.1アプリに上り詰めた「Duolingo」のインフルエンサーマーケティング戦略
水谷 翔氏
Duolingo, Inc.
Country Manager, Japan
月間アクティブユーザーを7000万人以上抱える、世界で最も有名な語学学習アプリ「Duolingo」。現在、42ヶ国語に対応しており、語学を学習される方にとっては、とても馴染みのあるブランドではないでしょうか。
その大きな特徴は、「楽しく・無料で・効果的に」語学を学べること。ゲーミフィケーションを取り入れられていることから、ゲーム感覚で毎日楽しく学ぶことができ、しかもコンテンツはすべて無料。さまざまな研究によって、より短い時間でより高い学習効果を得られることが証明されているのです。
そんな「Duolingo」が日本に上陸したのは2014年。アプリのローンチから約2年後のことでした。その後、今回お話を伺った日本のカントリーマネージャーである水谷 翔氏が2020年にジョイン。日本市場で本格的にコミュニケーションを開始すると同時に、インフルエンサーマーケティングを始めておられます。
THECOOをパートナーに選んでよかったことや、インフルエンサーマーケティングを活用した市場開拓の方法などについて、水谷氏にお話を伺いました。
グローバルのメンバーを戸惑わせた日本人のヘンな特徴とは
新卒で株式会社MIXIに入社し、広告の企画営業として活躍されていた水谷氏。その後、6人で広告代理店を創業したものの、MIXIから再度声がかかり、ソーシャルゲームの北米市場開拓を手伝うことになります。そこで「事業サイドでマーケティングの経験をもっと積みたい」という思いが高まり、17LIVE株式会社に転職。アプリのDAUを増やすなど実績を重ねていたところ、Duolingo社からオファーが入りました。
「今もDuolingoに日本支社はなく、僕は本社所属。だから、いわゆる外資系日本企業の方々が課題として口にされる“本国との関係値の難しさ”みたいなものはないんですよ。『日本のことは水谷が一番よくわかっているはずだから、基本的に任せるよ』というスタンス。もちろん日頃から常に情報共有はしていますし、ブランドのあり方はグローバルの方針を踏襲していますが、マーケティングに関しては日本スクラッチで、自由度高くやらせてもらっています」(水谷氏)
2020年にDuolingoにジョインした水谷氏は、まず日本の市場や消費者を理解するためにリサーチを行いました。その結果を見て感じた課題は、認知度の低さ。グローバルではとてもメジャーな存在なのに、なぜか日本では誰も知らない。アプリの使いやすさ、学習コンテンツの充実度などから、語学学習者の間ではオーガニックのクチコミで広がっていたものの、一般的に見るとまだまだ開拓の余地がある状態だったのです。
「とはいえ、利用開始からの継続率や、ユーザーの課金率を見ると、至って健康的。トップオブファネルの認知さえ伸びれば、すぐにグロースするだろうということはわかっていました」(水谷氏)
日本のユーザーの特徴は、自身の語学力に対して非常に謙虚であることだと言います。特に英語では、小学校・中学校・高校・大学と、10年以上も学んでおり、文法や単語のそれなりの知識はあるはず。諸外国の基準に当てはめると立派な中級者以上であるにもかかわらず、「自分はまだまだ初心者だ」と自己認識している人があまりにも多いのです。
「これにはグローバルの開発メンバーが戸惑っていましたね。『みんな初心者を選択しているのに、どうしてレッスンの一番深いところまで進んでいる人がこんなにも多いんだ?! 』と(笑)」(水谷氏)
自身を過小評価する日本人の特徴は、アプリの利用法にも表れていました。Duolingoでは最初にユーザーのレベルを把握するためのプレイスメントテスト機能があり、それを受けると自分のレベルに合ったところから効率よく学習を始めることができるようになっています。しかし、自分を初心者だと認知している日本人は、プレイスメントテストを受けて評価されることにためらいがあるのです。
仮にプレイスメントテストを受けずにDuolingoで学習を始めると、一番最初のレベルからのスタートとなってしまうため、「あまりにも簡単すぎて、つまらない」というネガティブな記憶が残りかねません。だからと言って、Duolingoのアプリは本国で開発されていることから、各国に合わせて機能を変えることはできない事情がありました。
そこで、アプリ内の文言を「テストを受ける」ではなく「クイズに答える」と変えてみることにしたところ、これが大当たり。ユーザーのプレイスメントテストに対する心理的なハードルが下がり、プレイスメントテストの受講率を上げることに成功したのです。
「日本と米国では、このような文化の違いだけでなく、そもそもの事業フェーズが違いますから、米国のような強者の戦略は、日本だと通用しません。グローバルキャンペーンをやりたいと言われても、日本は参加しないこともあります。インフルエンサーマーケティングで起用するYouTuberも、日本独自で決めています」(水谷氏)
「インフルエンサーマーケティングの位置付けは運用型広告と同じ」と言えるワケ
Duolingoがターゲットに定めるのは「いつか外国語をしゃべれるようになりたいけれど、『まだ』勉強を始めていない人」。これは、すでにニーズが顕在化した「学習を始めている人」をターゲットにしている競合サービスとは異なる、ユニークなポイントです。また、「インフルエンサーマーケティングの目的はグロース(=アプリのダウンロード数やDAUの拡大)である」と明言する水谷氏。しかも「その位置付けは運用型広告と同じである」と言うのです。
「それだけアプリに自信があるということ。インフルエンサーを活用したYouTube動画で『いつかしゃべれるようになれたらいいのにな』と思っているくらいの潜在層にアプローチして、『こんなのがあるんだ!』と知ってもらえたら、ダウンロードにつなげられます。認知を拡大するチャネルはいろいろあるけれど、アプリのグロースを狙えるチャネルはインフルエンサーマーケティングや運用型広告など、種類が限られます。しかも運用型広告は、かけた広告費に対して天井が見えているのに対し、インフルエンサーマーケティングには天井がない。大当たりして一気に爆発することもあれば、じわじわとロングテールで伸びていくこともある。そこがインフルエンサーマーケティングの魅力ですね」(水谷氏)
したがって、インフルエンサーマーケティングを効果測定する際の指標も、運用型広告と同じ「CPI(コスト・パー・インストール)」。当然、YouTubeの概要欄に貼るリンクによる数値も計測しているものの、アプリストアで検索してダウンロードする人が多いことから、動画を配信した後のダウンロード数の動きや、Duolingoのアプリを立ち上げたときに聞いている「Duolingoを何で知りましたか?」というアンケート結果もあわせて分析していると言います。
インフルエンサーマーケティング・ソーシャルメディア・PR・キャンペーン、これら4つがDuolingoのマーケティング戦略の柱となっており、それぞれにバランスよくリソースを割くようにしているという水谷氏。起用したいYouTuberを自ら探しているうちに、「これくらいのフォロワーがいるなら、これくらいの再生数は欲しい」「この再生数なら、これくらいのいいねやコメントがついていないと、エンゲージメントが高いとは言えない」「YouTubeの再生数はある程度あるけれど、Twitterではフォロワーからの反応率が悪く、コアなファンがついているとは言えないようだ」といった判断を瞬時にできてしまうほどになったのだとか。そんな水谷氏であれば、代理店を通さずともインフルエンサーマーケティングができるように思えますが、なぜTHECOOにご依頼いただけているのでしょうか。
「THECOOさんとは17LIVE時代からのお付き合い。インフルエンサーを擁する事務所ではなく、代理店だからこそ、網羅的にいろいろなインフルエンサーをご紹介いただけますし、事務所と直接のやり取りだと難しい交渉ごとも柔軟に対応していただけるのが有り難いですね」(水谷氏)
ダウンロード数No.1の先にある新たな目標を目指して
現在のDuolingoユーザーの年齢層は10代から60代まで均等に分布していると言いますが、インフルエンサーマーケティングで狙いたいのは30代・40代。なぜかと言えば、この世代が「課金ユーザーに転換しやすいから」であるのと、「語学に対するニーズが高いから」です。
そうは言っても、YouTubeで30代・40代を狙うのはなかなか難しいとされている中で、水谷氏はどのような点を工夫されているのでしょうか。
「意外に思われるかもしれませんが、インフルエンサーの方には『できるだけDuolingoを紹介する割合を増やしてください』とお願いしています。『商業的になって視聴者が離れるから無理です』とお断りをされることもあるのですが、『そういうことであれば、やりたい企画で構いませんが、動画内で20〜40%以上はDuolingoに関して言及してください』とお伝えしているんです。それは、企画の内容と同等か、それ以上に、『Duolingoについて言及されている割合が、コンバージョンレートに比例してくる』ことがわかっているからです。Duolingo自体がおもしろいから、画面をそのまま見せながら遊んでもらうだけで、視聴者にとってもおもしろいコンテンツになるんですよ」(水谷氏)
最後に、水谷氏は今後の展望を、次のように語りました。
「Duolingoは2022年通期で『語学アプリ』カテゴリではもちろん、『教育アプリ』カテゴリでも、すでに日本でNo.1になっています。ここから先は、いかにブランドとして日本でドミナントな存在になっていけるか。いずれ、語学の勉強をすることを『Duolingoする』と言われるくらい“アイコニックなブランド(=愛されるブランド)”をつくっていきたい。インフルエンサーの方たちが自らDuolingoの宣教師になってくれるような世界にしていけたら最高ですね」。
(文:野本 纏花)
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