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売上を生む“片思い”:インフルエンサーマーケティングでパラソーシャル関係が鍵になる理由
INDEX
インフルエンサーマーケティングは、いまや日本でもさまざまな業界で活用されるようになっています。しかしその一方で、「なぜ効果があるのか」「どんな効果を狙って実施するのか」が曖昧なまま運用されているケースも少なくありません。注目すべきは、他の広告手法とは異なる、インフルエンサーと消費者の“関係性の深さ”です。SNS上で日常的に接触し、信頼や親しみを感じるこの関係性は、心理学では「パラソーシャル関係」として定義されています。この記事では、このパラソーシャル関係の構造と、マーケティングにおける効果について、先行研究をもとにひも解いていきます。
パラソーシャル関係(Parasocial Relationship:PSR)とは
パラソーシャル関係(以下、PSR)とは、現実には面識のない相手に対して、一方的に親近感やつながりを感じる心理的な人間関係を指します。この概念は1956年、社会学者のリチャード・ウォールとドナルド・ホートンによって提唱され、当初はテレビに登場する芸能人との関係性を説明するために用いられていました。
近年、SNSの普及によって、インフルエンサーという存在が登場しました。彼らは一般人に近い距離感でありながら、SNSの双方向的なコミュニケーション特性も相まって、消費者がPSRを感じやすい環境が整っています。
多くのインフルエンサーは日常的に発信を行い、プライベートな情報も積極的に共有しているため、ファンはあたかも親しい友人のようにインフルエンサーを“理解している”と感じます。一方で、インフルエンサー側は、数万人から数百万人規模に及ぶフォロワー1人ひとりのことを知ることはできません。
このような片方向的な関係性は、時にネガティブな文脈で語られることもありますが、インフルエンサーマーケティングの文脈ではポジティブに活用することが可能です。ファンがインフルエンサーに親近感や憧れの感情を抱き、「同じ商品を使いたい」「同じ体験をしたい」と感じることによって、一般的な広告とは異なる強い態度変容を促す効果が期待できるのです。
パラソーシャル関係が生まれる要因
前章で述べたように、多くのファンがインフルエンサーに対してPSRを持つことで、インフルエンサーの影響力は大きく高まります。では、このPSRはどのような要因によって形成されるのでしょうか。先行研究の知見から、いくつかの共通点が見えてきます。
Masuda et al.(2022)は、YouTubeユーザーを対象にアンケート調査を実施し、インフルエンサーへの知覚が購入意向にどのように結びつくかを統計的に分析しました。その結果、ユーザーの購入意向に関わる3つの心理的特性と、それらに影響を与える3つの個人属性を明らかにしています。
購入意向に関わる3つの特性
- インフルエンサーの信頼性
- 知覚された専門知識
- パラソーシャル関係(PSR)
特性に影響を与える3つの個人属性
- 態度の同類性(自分と価値観が似ていると感じられる)
- 身体的魅力
- 社会的魅力(親しみやすさ、好感度など)
一方で、厳 & 高橋(2022)の研究では、インフルエンサーが与える製品態度や購買意図への影響にPSRが介在していることを指摘しています。彼らはPSRに影響を与える要因として、以下の2つを挙げました。
パラソーシャル関係を形成する要因
- 信憑性(情報の正しさ・納得感)
- 羨望(自分もこうなりたい、という憧れ)
さらに、信憑性は以下の5要素に支えられているとされています。
- 信頼性
- 専門性
- 社会的魅力
- 身体的魅力
- 同一性(自分との共通点)
両研究のアプローチは異なるものの、共通して「身体(肉体)的魅力」や「社会的魅力」がPSRの形成に寄与することが確認されています。また、専門知識を持っていることや信頼感を感じさせる発信スタイルも、PSRの構築において重要な要素といえます。
これらの知見から、単に「映える」だけではない、インフルエンサーの人間的な魅力やコミュニケーションスタイルが、ファンとの関係性を深め、購買意向へとつながることが示唆されています。
パラソーシャル関係がもたらすインフルエンサーマーケティングの価値
PSRは、インフルエンサーマーケティングにおける消費者との“感情的なつながり”を生み出す鍵です。近年の複数の研究では、このPSRがブランド態度や購買意図に与える重要な影響が示されています。では、PSRの特性をどのように活かすことで、マーケティングの成果につなげることができるのでしょうか。
① インフルエンサー選定のポイント:知名度によるアプローチの違い
まず、インフルエンサーの選定においては、「消費者からどう見られているか」が極めて重要です。増田(2020)の研究によれば、インフルエンサーの知名度によって、商品推薦意向に影響を与える要因が異なることが明らかになっています。
メガインフルエンサー(知名度の高い層)
この層ではPSRよりも、専門性や信頼性が購買意向に強く影響します。特に、視聴者が「この人の言うことなら信頼できる」と感じるような語り口やコンテンツ設計が重要です。
マイクロインフルエンサー(知名度の低い層)
視聴者との間でPSRが形成されていることが、商品推薦意向を高める主要因となります。そのため、視聴者と価値観やライフスタイルが近く、身体的・社会的魅力を持つインフルエンサーの起用が効果的です。
② PSRを育むための信憑性と感情的共鳴
インフルエンサーが発信する情報の信憑性を高めることも、PSRを深めるうえで欠かせません。信憑性は「信頼性・専門性・社会的魅力・身体的魅力・同一性」といった複数の要素に支えられています。発信する情報が正確であり、かつ視聴者の生活感覚に合っていると感じられることで、感情的な共鳴が生まれます。
また、「憧れ」や「羨望」といった感情もPSRの深化に寄与することが研究からわかっています。消費者が「この人のようになりたい」と感じたとき、紹介される商品や体験にも自然と惹かれるのです。
③ 短期の効果だけでなく、長期的な態度変容も見据える
PSRは直接的な購買行動だけでなく、製品やブランドに対する好意的な態度形成にも影響します。つまり、短期的な成果指標(例:CVR)に加えて、中長期でのブランド認知・態度変容も含めて効果を捉えるべきなのです。
④ PSRを活用した具体的な施策例
PSRを高めるために、以下のような施策が実践で有効と考えられます。
- インタラクティブなコンテンツ
コメント返信、ライブ配信、質問募集など、フォロワーと双方向のやり取りを通じて、親密なつながりを構築する。 - パーソナルな情報の共有
ライフスタイルや価値観の発信により、視聴者との共通点を感じさせ、共感を生む。 - 透明性の確保
広告であることを明示しつつ、誠実な姿勢で発信することで、PSRを損なわない信頼関係を維持する。 - 継続的なエンゲージメント
Delia et al.(2024)によると、同一インフルエンサーによるタイアップ投稿は、視聴者の信頼を損なうことなく、むしろ関係性を深化させることが示唆されています。逆に、商品ごとに異なるインフルエンサーを起用し続けることが、視聴者の不信を招くケースもあるため、長期的なパートナーシップの構築が推奨されます。
インフルエンサーマーケティングにおいてPSRを活用することは、単なる商品紹介を超えた感情的な信頼と共感をベースにしたブランド体験を創出する手段です。消費者とインフルエンサーの間に「本当のつながり」を感じさせることで、ブランドへの理解や愛着を深め、持続的な態度変容・購買行動へとつなげることが可能になります。
パラソーシャル関係の注意点
上記のように、インフルエンサーマーケティングは消費者とインフルエンサーとのパラソーシャル関係を活かしながら消費者に発信することの意義をお伝えしてきましたが、この”親密な”関係にはいくつか注意点があります。PSRの強みは、同時にリスクにもなりうることを理解し、適切に活用していく必要があります。
1. 消費者が「裏切られた」と感じるリスク
PSRに基づくコミュニケーションは、消費者にとって「友人のおすすめ」に近い形で受け取られる傾向にあります。そのため、インフルエンサーの発言や行動が商業的すぎたり、不自然なPRであると感じられた瞬間に、「騙された」「裏切られた」という強いネガティブ感情が生まれるリスクが高まります。
これは、広告に対して通常抱かれる「やや懐疑的な態度」とは異なり、より感情的な拒否反応に近いもので、ブランドへの信頼を損ねる結果にもなりかねません。とくに、明らかに使っていない商品を紹介している、過去の投稿内容と矛盾する内容を急に発信する、といったケースでは、消費者の失望感は大きく、PSRが逆効果になる可能性があります。
このリスクを避けるためには、以下のような配慮が求められます。
- インフルエンサー自身の言葉で語れる商品選定
- 実体験を伴うコンテンツ設計
- 広告表記の透明性と、自然な文脈での商品紹介
2. タイアップ投稿におけるパラソーシャル関係の利用の限界
パラソーシャル関係はあくまで「擬似的な関係性」であり、万能ではありません。とくにタイアップ投稿においては、PSRの力だけで消費者の態度や行動を変えることには限界があるということも意識する必要があります。
一時的なキャンペーンやプロモーションにおいて、PSRに頼りすぎると、以下のような落とし穴に陥る可能性があります。
- 過度な演出や感情訴求により、コンテンツの信憑性が低下する
- 短期的な成果に偏重し、ブランドへの態度変容や長期的関係構築につながらない
- 同一ブランドとの関係性が希薄なまま複数回タイアップが続くと、消費者側に不信感が蓄積される
また、視聴者は年々、広告に対するリテラシーを高めており、「これは単なる広告だ」と見抜いた瞬間にPSRの効果は薄れてしまいます。つまり、PSRを活用したタイアップ投稿こそ、もっとも“中身”が問われるコンテンツだということです。
そのため、タイアップにおいては次のような工夫が求められます。
- ブランドとインフルエンサーとの中長期的な関係性の構築
- インフルエンサーの視点やライフスタイルと自然に接続できる商材選定
- 単なる商品の紹介ではなく、ストーリーや価値観に根ざした発信の設計
まとめ
インフルエンサーマーケティングは、単なる商品の認知拡大だけではなく、インフルエンサーとフォロワーのあいだに形成されるパラソーシャル関係を活用することで、より深いブランド態度の醸成や購買意図の喚起が可能になります。ただし、この“親密さ”は諸刃の剣でもあり、信頼性や一貫性のないコミュニケーションは逆効果となるリスクもはらんでいます。ターゲットに応じたインフルエンサーの選定や、自然なストーリーテリングによる発信設計がますます重要となるでしょう。
パラソーシャル関係を最大限に活かしたインフルエンサーのキャスティングやキャンペーンをご検討の際は、THECOOにお気軽にご相談ください。
参考文献
Hisashi Masuda, Spring H. Han, Jungwoo Lee, 2022. Impacts of Influencer Attributes on Purchase Intentions in Social Media Influencer Marketing: Mediating Roles of Characterizations
厳 瑞丹, 髙橋広行, 2022. インフルエンサーと消費者とのパラソーシャル関係が製品の購買意図に及ぼす影響
Delia Cristina Balaban, Julia Szambolics, Mihai Chirica, 2022. Parasocial relations and social media influencers' persuasive power. Exploring the moderating role of product involvement
増田 央, 2020. 信憑性とパラソーシャル関係から見るソーシャルメディアインフルエンサーのプロと非プロにおける推奨広告効果の差異
Shaaba Lotun, Veronica M. Lamarche, Ana Matran‑Fernandez, Gillian M. Sandstrom, 2024. People perceive parasocial relationships to be effective at fulfilling emotional needs
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